「トラ」



2015 3 9


「トラ」は,私が小学生の頃から大学に入るまでの間,一緒に暮らしたネコです.

「トラ」は私が最初に保護した♀猫の子供で,兄弟や母親が相次いで交通事故で亡くなった後,最後まで残ったネコでした.女の子と間違えられそうな顔立ちをした,控えめな性格の♂ネコでした.

運が強く,長生きしてくれるかと思った「トラ」でしたが,外のケンカでもらったネコエイズが発症したのは私が大学受験のために上京しようとしていた頃です.ひどい口内炎を起こし,私の母と一緒に獣医さんに診てもらったのですが,獣医さんが私たちに伝えた余命は3日でした.

後で思えば,一時的に炎症を抑えるステロイド剤を投与されたのでしょう.家に帰ってからの「トラ」は昔どおりの元気さを取り戻し,ゴハンもばりばり食べ始めました.苦痛から解放されたためか,顔立ちも昔ながらの優しい顔に戻っていました.

「よかったな.これからずっとまた一緒に生きていこうな」

私は「トラ」の顔を見つめ,心の中でそうつぶやきました.そして「トラ」も私をじっと見続けていました.

「トラ」の回復は,そう長くは続きませんでした.
私がとうとう上京のため実家を出ようとした頃には,歩くことはおろか立ち上がることすら覚束ず,二階の階段近くに置いたベッド代わりの段ボールの中でオシッコをしていました.

「トラ,行って来るよ」

玄関を開けて外に出ようとした私は,「トラ」に声をかけました.すると「トラ」は,前足だけで立ち上がり,階段の上から大声でナーナーと鳴き始めました.獣医さんの言葉を頭の隅にに押しやりつつ,受験が終わって帰るまで「トラ」は待っていてくれるだろうと思いながら,私は家を出ました.

受験を終えた頃,実家の母から届いた知らせは,「トラ」が亡くなった事でした.歩けないはずの「トラ」が階段を下りきったところで眠りについていたそうです.


私は東京の大学に通うことになり,実家からは離れることになりました.帰省しても「トラ」に会えないことに,砂を噛むような思いがしましたが,新しい生活がその思いを少しはかき消してくれました.ただ,夏休みに帰省して「トラ」が横たわっていた場所を,しばらく見つめ続けていた憶えがあります.

それから何年か経ち,ある不思議な事がありました.
アパートで寝ていた私の布団の中で,何か動く暖かいものがあります.形や大きさからして,ネコに違いありません.

「そうか,ネコが迷い混んできたのか.だったら飼ってやろう」

そう思った私は,目覚めてからのネコとの生活を考えながら,再び眠りにつきました.

朝目覚めた私の布団には,また部屋の中には,ネコなどはいませんでした.窓を閉め切った2階の部屋にネコが入ってくるはずがありません.ようやく,それが夢だったと分かりました.しかし,あの布団の中でモソモソ動く暖かさは,朝になっても忘れることはできませんでした.

大学を卒業し働き始めてから,仕事の帰り道で出会うネコに声をかけたり,自宅の近所のノラさんたちに顔を覚えてもらう日々が続きました.そのうちの何匹かとは仲良しになり,家まで遊びにきてくれたネコがいました.ただ,みんな風来坊のネコさんたちで,それになにより私自身ネコを飼う気にはなれませんでした.「トラ」との別れが,また同じ思いをすることに足踏みをさせていたのです.

ある日,仕事帰りに夜空を見上げながら,私は 「トラはどうしているかな」 とつぶやきました.なぜそうしたのか,今でも自分で分かりまん.ノラさんたちと遊びながら,無意識のうちに私は「トラ」を探していたのかもしれません.

それからしばらくして,顔見知りの近所の♀猫が子供を生み,子連れで私の家にやってきました.その子供達の中で,最後に居着いたのが寅さんです.3週間も仕事で家を空けて帰ってきた年の瀬のある大雪の日,寅さんは私を家の前で出迎えてくれました.雪が積もった寒い夜,寅さんを外に行かせることはできません.私はその日から寅さんと一緒に暮らすことを決めました.

初めの頃,私は寅さんを別の名前で呼んでいました.一緒の暮らしが日を重ねるにつれ,外見だけでなく振る舞いや性格が私に「トラ」を思い出させた時,あの布団の中の暖かなモソモソしたもの,夜空へのつぶやきが,すべて繋がっているような気がしました.
その時から私は,この子は「トラ」の生まれ変わりだと思うようになりました.「一緒に生きていこう」という約束を「トラ」がちゃんと守ってくれたのだと,嬉しくなりました.



さて,その寅さんですが... 相変わらずかくれんぼから帰っていません.
ただ,何があっても,「私」というたましいと,「トラ」あるいは「寅さん」というたましいの繋がりは今までどおりなのだろうと思っています.

これからは,ネコを保護するボランティア活動に参加しながら,気長に寅さん(「トラ」?)との再会を待つことにします.







復興を果たし,今までになく栄えている東北を想い描いています.
その日がすぐに来ますよう.
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コメント

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こんばんは。

トラの父さん、お久しぶりです。

わたしも昨年、辛い時も嬉しい時も共に暮らしてくれた
愛猫との22年間の生活に幕を閉じる経験をしました。
初めて拾った猫との暮らし、思い出、最期のあたり
苦しみながら、わたしの指先を肉球で掴み何かを
訴える様な姿は一生忘れられません

逝ってしまった娘は今、深大寺に眠ってるのですが、
幸せに生きられたのかな?と思い返すことがあります。

自身のことばかり話してスミマセン・・・
寅さんは元気で暮らしてくれてることを切に祈るばかりです。

No title

そうでしたか。初代のトラちゃん時代から、ずっとつながっていたのですね。
初代のトラちゃんが、家を出る前のお父さんに自分の思いを告げ
夢の出演や夜空の追憶、と段階を踏みながら
最終的にその思いを果たしたのかもしれませんね。
そう言えばトラちゃんと寅さん、柄も同じですね。控えめな性格も。

猫保護ボランティア、私もずっと気になっているのに踏み出せずおります。
色々と辛い事がありそうな気がして、つい、気後れしてしまうんです。
でも、寅さん捜索の手掛かりになるかもしれないし
楽しい猫友さん達とのつながりも生まれそうな気もします。
一歩踏み出したお父さん、スゴイです。
お父さんにそういう行動を起こさせるのも
これまた何かのめぐり合わせなのかもしれませんね。

寅ちゃん、お父さんは頑張っているから又早く出てきてね!

Re: こんばんは。

Tamariderさん,こんばんは.


たしか先日,愛猫さんの四十九日で深大寺にお参りされたのでしたね.
22年のネコ生は大往生と言ってもいいでしょうし,その間大事にされた事を愛猫さんは忘れないでしょう.
私の記憶違いなら失礼ですが,バイクで通りがかりに捨てられていたネコさんを保護されたのではなかったでしょうか.それだけでも,愛猫さんは本当に幸せなネコさんですよ.
肉球でTamariderさんの手を握ったのは,何か最後に甘えながら「ありがとう」を伝えたかったように,私には思えます.

傍目からみれば,単なるペット,単に飼われているネコやイヌに過ぎないでしょうが,一緒に暮らす側からすれば,家族か身内そのものですからね.
私も余所の人には「うちのネコ」と言いながら,「トラ」も寅さんも私にとってはネコ以外の何か別の存在です.

Re: No title

くろまるさん,こんばんは.


寅さんが「トラ」の生まれ変わりというのは,私の思い込みなのかもしれません.
でも,私はその思い込みに不自然さを感じないのです(それだけ思い込みが強いからかもしれませんけれど).
ただ,今でも憶えている事は,フトンの中のモソモソが私の腕や脇腹を押し退けたような感覚です.
その頃はようやく「トラ」を失ったことでの悲しみが消えかけていたので,「トラ」と結びつけて考える事はしませんでした.思えば私も鈍感でした.

私が参加しようとしているのは,地域猫のボランティア団体です.
ノラさんたちを去勢・避妊,ときには直接保護する活動をされています.
お話をお聞きすると,実際にはネコ嫌いな人たちとの折衝が多く,ネコよりも人間の相手をする事の方が多いそうです.私自身は平日仕事があるのでそうした活動にはお手伝いできませんが,それでも何か間接的にでもお役に立てればと思っています.
今回の寅さんのかくれんぼ騒動で知りましたが,ネコを保護するアニマルシェルターを運営するNPOがあるようです.
http://www.tokyocatguardian.org/index.html
他にも,同様な活動をしている団体もあり,自分にできることがあれば何かしたいと思っています.


No title

お邪魔します。

何だかとってもしみじみした気持ちで、読ませていただきました。
それぞれにドラマがあるんですね。

ボランティア活動に参加されるんですか。素敵なことだと思います。

もしかしたら、これは寅さんのメッセージなのかもしれません。
「恵まれないネコちゃんたちのために、なにか一歩踏み出してね!」というメッセージを、寅さんは置きみやげにして、しばらく旅に出たのかもしれません。
きっと旅の空の下で、寅さんは喜んでいるんじゃないでしょうか。

Re: No title

お夕さん,こんばんは.


寅さんと知り合って最も印象的だったのは,寅さんの仲間ネコへの面倒見の良さです.
私があげたカニカマをくわえて寅さんが走り出したかと思うと,自分より若いネコの前にポンと落とし,相手が食べるまでじっと座っていました.
ネコにそれほど利他心があると思っていなかった私には,忘れられない光景でした.
一時期は若いネコたちを引き連れて,寅さんは隊長気取りで遊んでいましたが,そんな優しさがあってこそだったのでしょう.

私がボランティアに関心を持ちはじめたのは,お夕さんが仰るとおり,寅さんのメッセージがそうさせているためかもしれません.
ヒザ上にも,私の腕の中にも,もうしばらく寅さんはいませんが,私の中にはいつも寅さんがいるような気がします.日に何度も,「おまえは宝物だよ」と,今は旅をしてるであろう寅さんに語りかけています.
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